時を戻し視線を居間に戻そう。

居間では士郎と志貴を除く全員が食後にお茶を飲んだりして寛いでいた。

士郎は土蔵に、志貴は小用で席を外していた。

「いや〜食った食った。士郎の奴腕を更に上げおったな」

コーバックが満足げに頷く。

「私達が全世界連れまして士郎に料理を教えた甲斐があったものね」

「それであんなに料理が達者だったのね・・・よく修行や勉強に励めたものね」

だが、そんな談笑の時間も直ぐに終わりを告げる。

突然呼子の音が辺りに鳴り響いたのだから。

「!!な、何ですか?これは?」

「この家の結界だ。誰か侵入して来たらしいな」

一斉に全員居間を飛び出す。

そして中庭には・・・

「シロウ!!」

「志貴!!」

志貴と士郎が複数の人影に傅かれる一人の男をただ、睨み付けていた。

蒼の書六『陰・陽』

志貴と士郎は傅いたままの『六師』・『影』よりも前方に佇む『六王権』に意識の全てを集めていた。

「陛下何ゆえ・・・」

「何、『影』お前が全てを賭けてでも倒したいと願望を言わせた男を見てみたくなってな」

そう言って『六王権』は士郎を見る。

その瞬間、士郎は力の差を歴然と察した。

これほどの力の差を見せ付けられるとは思わなかった。

身体から感じられる魔力は志貴と同様、底が見受けられない。

恐れをどうにか押さえ込み『六王権』を睨み返す。

「なるほど・・・いい眼だ。そして良き・・・強き魂だ。まだまだこの男は伸びる。お前が殊惹かれるのも無理らしからぬ事だ」

「恐縮です」

「さて・・・用も済んだ。帰る・・・」

だがその時『六王権』は隣にいた志貴に初めて視界に入った。

「!!!」

その瞬間『六王権』は動きが止まった。

「・・・」

口をかすかに動かしその表情は驚愕に凍り付いている。

だが、それは志貴も同様だった。

何故か『六王権』の眼を見た瞬間、身体に衝撃が走り、どうしてか懐かしいと思った。

(何故?何故・・・俺は奴を懐かしいと思う?)

『六王権』とは初対面だ。

なのに・・・

「志貴?どうした?」

「陛下?如何なさりましたか?」

士郎も『影』達も己が盟友と主君に怪訝そうに声をかける。

「シロウ!!」

「志貴!!」

後ろ・・・縁側からアルトリアとアルクェイドの声がする。

「・・・『六師』奴らを近寄らせるな・・・『影』お前は『錬剣師』を」

「「「「「「御意!」」」」」」

「はっ」

『六王権』の言葉を受けて『六師』が志貴たちの後ろに立ちはだかり、『影』は士郎に襲撃を仕掛ける。

「・・・そうか・・・そうだったのか・・・お前がいたから私は蘇る事が出来たのだな・・・

聴きなれない言葉が出た。

「陰?何だ!!それは?それに俺はお前を知らない。知らない筈だ!なのに・・・何でお前を懐かしいと思う・・・わからない・・・俺は・・・何故・・・」

(主よ・・・)

その時志貴の体内から突然四聖が姿を現す。

「!!どうした四聖!!」

(主よ・・・我らの予測は完全に当たりました)

「予測だと?」

志貴の声に合わせて『六王権』が懐かしげに親しげに四聖に話しかける。

「やはりか・・・久しいな四聖」

(やはり・・・貴方様でございましたか・・・)

青竜が頭を垂れる。

「!!青竜!」

信じられない。

自分以外には例え妻であろうと盟友であろうと決して敬意を表さぬ四聖が『六王権』に敬意を表しているのだ。

「お前たちがいると言う事はあの者が陰なのだろう?」

(いいえ・・・この方は七夜志貴様・・・我らの今代の主。そして・・・あの方より我らを従える事を許された方です)

「青竜!白虎!玄武!朱雀!どういう事だ!お前達はあいつを・・・『六王権』を知っているのか!!」

その時、志貴の脳裏に懐かしい声がした。

(志貴・・・)

「えっ?・・・そ、その声は・・・」

聞き間違える筈がない。

志貴にとって最大の恩人であるあの人・・・

「お、お師匠様?」

(申し訳ないけど・・・身体借りるよ。おそらく君の疑問に全て答えられる筈だから)

「・・・はい」









中庭に下りようとしたアルクェイド達を六つの影が行く手を遮る。

「ここから先は通行止めだぜ。お嬢さん方」

軽い口調で言う『風師』にアルトリアが一瞬の内に武装し、切りかかる。

だが、『風王結界』で見えにくくなっているその剣を『風師』はいとも容易く受け止める。

いや、受け止めただけならまだしも触れた瞬間『風王結界』がかき消され剣がむき出しとなる。

「なっ!!」

「ほほう・・・空気の屈折で見えにくくしているのか・・・残念だが、俺に子供だましはきかねえよっと!!」

剣の軌道を逸らしその勢いのまま、がら空きとなったアルトリアの腹部にソバットを叩き込む。

「ぐっ!!」

軽く当てただけだった為か、かすかに背を折るが直ぐに間合いを取り直し剣を構えなおす。

だが、更にアルトルージュが間髪いれずに突っ込み暴風が擬人化したかのような連撃を叩き込むが『風師』は飄々と風をあしらう柳の如くかわし、逸らす。

「出来れば嬢ちゃんに一撃食らわせたくねえんだがよ」

「うるさい!!私の城と私の従者を痛めつけてくれたお礼存分にしてあげるわよ」

「??って事は・・お前が『黒の姫君』??」

そう言うと戦闘中にも関わらずまじまじとアルトルージュを見る『風師』。

「ふむ・・・なるほどな・・・文句のつけようも無い上玉だが・・・ちょっとばかり年が足りねえか・・・惜しいな・・俺の守備範囲外だな」

のんきにもそんな事をほざく。

そんな言葉にアルトルージュは更に逆上して攻撃を叩き込もうとしたが

「・・・いい加減にしろ『風師』」

飛び込んできたアルトルージュにカウンター気味に正拳突きが入り軽く吹き飛ばされる。

「姉さん!」

吹き飛ばされた姉をアルクェイドが受け止める。

「っ・・・大丈夫アルクちゃん」

相手が力を入れなかった為か、とっさに身をかわした為か・・・あるいは双方の理由の為か、さしてダメージを受けた様子も無く、立ち上がる。

「ったく・・・邪魔すんなよ。とっつあん」

一方で、乱入してきた『地師』に文句を垂れるが

「調子になるな。『風師』」

「そうよ。私達の役目は陛下の邪魔をさせない事」

「それを忘れて戦いに興じるな」

『炎師』・『水師』・『地師』から反撃を受ける。

「全力でやっても構わないわよ。何人かは間違いなく死ぬと思うけど」

『闇師』の言葉に驕りも偽りも無い。

直に対面してわかる。

この六人は間違いなく二十七祖クラス。

アルトルージュやアルクェイドでも直ぐに片付けられる相手ではない。

特に直に戦ったアルトリアとアルトルージュはその実力を肌で感じ取っていた。

しかも全く本気を出していない。

手間取っている間にこのメンバーの中では実力の低い凛達を血祭りに上げていくだろう。

「そうそう、まあ少しおとなしくしておけって俺達も殲滅が目的でここに来たんじゃねえからな」

けらけら笑う『風師』の声が妙に腹立たしく思った。









「はっ!!」

「ふっ!!」

膠着状態に陥った志貴と『六王権』、アルクェイド達と『六師』に対して士郎と『影』は膠着させると言う選択など脳裏には存在していなかった。

『六王権』に足止めを命じられた瞬間『影』は本気で士郎を殺しにかかり、士郎もまた本気で応戦に入った。

至近より発動された触手を方天戟で薙ぎ払う。

「・・・」

その体勢のまま、返す刀で『影』にも一撃を浴びせかける。

その一撃を触手の一本が白刃取りで受け止める。

そのまま双方とも退かず、至近距離から触手が襲撃を仕掛け、士郎は全てを捌き根元からぶった切る。

「・・・やるな」

「お互いにな」

そんな中でも二人は笑い合う事を忘れていなかった。









そして・・・

互いを凝視していた志貴と『六王権』だったが、そこに異変が起こった。

「・・・久しいな陽」

志貴の口から志貴のものではない声が発せられた。

「!!やはり陰お前か!!」

「言っておくが陽、この身体は七夜志貴の肉体、私はこの身体をほんの少し借りているだけだ」

「構わん!陰、お前さえ俺と共に来れば」

「陽・・・やはりお前、主命を」

「無論だ。あの時の主命俺は一時たりとも忘れた事はない・・・お前とて同じだろう?」

「それは私も同じ事、忘れた事など一時たりとも無い。お前には自身の悠久の命と力を与え私には『四聖』と、人として子孫を残す事を許され互いに人の行く末を見守り続けよ仰られた・・・」

「そうだ。陰、今の世を生きる人に生き残る資格があると思うか?既にこの大地に蔓延し、この大地を食い物として衰えさせ枯らさせようとしている。ありとあらゆる悪徳を是とし、欲の為に同族を殺す事すら厭わぬ。この種族に生き続ける資格など当に失せているのではないのか?今こそ我々の手で人を滅ぼし尽くす時ではないか?」

「お前の言う事にも一理あるだろう。だがな、それは人の一面に過ぎぬ。美徳も善しとし、何の縁なき他者をその命と引き換えにして守ろうとする、これもまた人の一面。それがある限り人は滅ぶに値するとはどうしても思えん」

「陰・・・やはりか・・・俺とお前の結論は常に違うな・・・」

「ああ・・・昔から俺とお前とは意見は真逆だった・・・主は判っていたのだろう・・・我々は友としていられるとしても、同じ道を進めぬ事を・・・だからこそ、違う道をいまわの際に託されたのだろう・・・」

「・・・」

「・・・」

やがて二人は無言になった。

だが、それも長くは続かない。

「所詮儚き夢か・・・『影』・『六師』!!!」

『六王権』が配下に号令を下す。

『はっ(はい)!!!』

「退くぞ・・・陰・・・さらばだ・・・今度会う時はどちらかが」

「ああ、滅びる時だな」

二人は静かに頷き合い、そして『六王権』一派は闇に溶け込む様に姿を消していった。

そしてその言葉は現実となる。

『六王権』、そして七夜志貴、彼らが再度出会い・・・そして戦う事になるのは『蒼黒戦争』も最終局面に突入した時だった。









全員無言のままで居間に戻る。

暫し、無言で茶をすする。

だが、その無言に耐え切れなくなったかのように

『志貴(君・ちゃん・兄さん)』

『七夫人』が全員声をかける。

「言いたい事はわかっている」

志貴の口からは『六王権』が陰と呼んでいた男の声が発せられた。

「お主・・・何者かな?志貴の肉体を乗っ取っているようだが」

一方ゼルレッチ達は敵意をむき出しにして志貴(の身体に潜む何かを)睨みつける。

「乗っ取っているとは人聞きの悪い。私は志貴の了解を得て暫し借りているだけ。なあ志貴」

「ええ、師匠、大丈夫です。この人は俺達の敵ではありません」

いきなり志貴の声が発せられる。

「志貴ちゃん!!」

「志貴、無事なのですか?」

「ああ、別に洗脳とかそう言った事もされていないから安心しろって」

「で、でも・・・」

「安心しなさい。私は直ぐにここを後にする。それよりも志貴、君に話しておかなくてはならないだろう・・・私が何者か?そして、私とあいつの関係も」

「・・・お師匠様・・・」

そして彼は話し始めた。









「私は・・・いや、私と陽・・・今は『六王権』と名乗っているようだが、彼はあるお方の従者を勤めていた」

「『月の王』!」

「そう、我々はこの地に降り立ち、そしてこの星の美しさに心を奪われた。そして欲した」

「ちょっと待って・・・じゃあ、あんたも最古の死徒って事?」

「あいつとは同じ時に生きたからな死徒といえば死徒なのだろう・・・そして我らが王はこの美しい星を欲し、それを一人の魔法使いが阻んだ」

その阻んだ張本人が目の前にいると言うのに酷く落ち着いた声だった。

「なんか随分と冷めてるようだけど・・・」

「当然だ。もう幾年過ぎただろうか・・・あれは現実に過ぎん。それにしても皮肉と言えば皮肉だな」

そう言い志貴(中にいる青年)はアルクェイドとアルトルージュを見る。

「よもや主君の器として創り出されたものを彼が娶るとは・・・話を戻そうか・・・その戦いの寸前、王は私とあいつに最後の主命を下された・・・」

それは過去の話・・・

 

“陰・・・陽・・・来たか”

この大地では仮初として女性の姿を模した月の王が己の忠実な臣下に声をかける。

「はっ」

「陰・陽確かに」

その王に傅く二人の男。

“妾はこれより人の魔法使いと戦う・・・お前達はこの地で待て”

「ですが・・・」

「陽、主命ならば我らは待たねばならん」

“そうだ。妾は負ける筈が無かろう・・・だが、万に一つと言う事もある。もしも妾が滅びた時最後の主命をお前達に下す”

「「はっ!!」」

“まず陽・・・妾が滅びた後余の力と寿命を全てお前に託す。その上でこの星の行く末を見守れ”

「御意!」

“そして陰・・・お前には月の僕『四神』を託し、そして人として生きる事を命じる”

「はっ!」

“良いか・・・その上でお前達は人として・・・そして人でないモノとして人を見定めよ。その上で人に生きる資格無しと判断をした時は思うがままに滅ぼせ。生きる資格ありと思うならばそのまま見守り続けよ・・・”

 

「・・・そして王は滅び、私は人としてあいつは王の代わりにこの世界を見守り続けた」

「じゃあ『六王権』は人を滅ぼす為に動いていると言うの?」

「ああ、多分、死徒も死者も全てな・・・」

「な・・・」

凛の言葉に容易く頷き、その内容に絶句する。

「では『六王権』は滅ぼした後はどうするのですか?」

「誰もいねえ世界で支配者を気取るのか?」

「その前提が間違っている。あいつはその後の事など考えていない。ただこの星をあるがままの形に戻すだけだ」

アルトリアとクー・フーリンの詰問に正直に答える。

「あるがままの形ですって?」

「そうだ。人はあまりにも急速に進化を続け、この星を食い荒らしている。その結果この星は急速に病み衰え、死につつある。それがあいつには我慢出来ぬのだろう。人を滅ぼした後あいつは手を出さず見守り続け星が傷を癒させようとするだけだ」

「だが、『六王権』はかつて世界を滅ぼさんと動いた。話を聞く限り辻褄が合わんがこれはどう言う事か?」

「それは簡単だ。あいつの方が人は滅ぼすに値すると判断し、私は人が滅ぶのはまだ早計と思った。その為あいつは単独で動いた。最も互いに同じ意見に達した所で私は既に『根源』の立会人になっていたからな。行動も起こせなかった」

「それともう一つ聞きたいわ。あんたと志貴の関係は?」

「師と弟子では納得出来ぬか?」

「でもそれだとなんで七夜に『極の四禁』として『四聖』の使役が伝わっているの?」

「・・・お師匠様、俺も聞きたい。教えていただけますか?」

「そうだな、判った。まあ、簡単な結論だがな、志貴は・・・いや、七夜一族は私の子孫だ」

さらりと告げられた言葉に志貴は驚愕以上に納得もしていた。

何故お師匠様が七夜伝説の技法『極の四禁』を知っているのか?

それを考えればその答えは当然とも言えた。

「まあ、とは言え私の正確な子孫であるとは言いがたいが」

だが、続けて発せられた言葉に全員顔を見合わせる。

「それってどういう事?」

「私は王の崩御後、人として生を歩み始めた・・・だが、私にには子を成す事は出来なかった。そこで私は自らの血と記憶・・・更には私の魂まで全てをある人間に移し、その人間として子をもうけ、その後は知っての通り・・・その子達はやがて七夜と言う一族を完成させた・・・まあ、このようなことはどうでも良いか・・・さてと・・・そろそろだな」

そういうと、志貴の体から陽炎のような人影が吹き出る。

「やはり現世に下りる時間はかなり限られているな。これが限界のようだ。志貴・・・最後に君に頼みがある」

「お師匠様・・・」

「頼む。あいつを・・・止めてやってくれ。あいつが未だに囚われているわが主君の幻影から解き放ってやってくれ・・・師として君に命ずるのではない・・・これは頼みだ・・・君なら出来る筈だ。君は我が王と私以外では初めて『四聖』・・・いや『四神』を完全に使役し、更には己の内に眠る死神の力を制御した。そんな君なら・・・」

その言葉を最後に陽炎は跡形も無く掻き消えた。









深夜、全員が寝静まった頃、志貴は中庭でただ独り、満天に瞬く星を眺めていた。

「・・・」

ただ、ひたすら無言で険しい表情を崩さずに。

いつもなら心を穏やかに静めてくれる筈の光景も何の力にもならない。

(主よ)

『四聖』の言葉にも志貴は応じない。

己の心がここまで乱れ、平穏を保っていない状態では何を言い出すのか判らない。

そんな志貴の背中に硬いものが突きたてられた。

「!!」

とっさに振り向くがそこには

「やれやれ、志貴、相当混乱してるな。いつもなら俺が気配を断っても半径五メートルで気付くのに」

長柄木刀を持った士郎がいた。

「・・・」

それに顔をしかめ、それでも無言で再び星を見直す志貴。

「・・・」

それに溜息をついて横に並ぶ士郎。

「ショックか?」

「・・・ああ、これでも生まれてから二十年と数ヶ月人間として生きてきたんだがな・・・ご先祖様が人じゃないと知れたからには衝撃を受けない方がどうかしてる」

「まあ・・・それかもしれない。だがお前はお前だろ?だったら」

「いや、さっきまでそれで納得させようとしたが・・・それも通用しなくてな」

困ったように自虐的に笑う志貴。

その笑顔を見て士郎も悟る。

(こりゃ重症だ)

付き合った時間は短いがその内容はある意味『七夫人』を超えるほど濃い間柄だ。

そんな盟友の心情も手に取るように判る。

「はあ・・・志貴」

「ん?」

志貴用の短柄木刀を投げ付ける。

「冬木市全域でやるか」

「良いのか?俺は構わんが遠坂さん達がまた怒り狂うぞ」

「その時はその時。それにお前の悩みを吹き飛ばすにはこれが一番良い」

「かもな・・・じゃあ行くか」

「おう・・・来い」

次の瞬間には志貴と士郎は姿を消し、木と木がぶつかり合う音がその名残を残していた。









深山・・・新都・・・教会・・・ビル街・・・冬木大橋・・・再び深山・・・そして最終的に二人は柳洞寺跡で大の字に寝そべっていた。

休憩など一切入れず夜が白く明け始めるまで二人は戦い続けた。

全身汗まみれで流石に息も荒い。

更には木刀から再び真剣に持ち変えたので全身かすり傷で覆われていた。

「はあはあはあはあ・・・志貴少しは気晴れたか?」

「ぜえぜえぜえぜえ・・・少しどころかすっかり」

「そいつは・・・はあはあはあ・・・良かった」

でなければ身体を張った意味が無い。

「は、ははははは・・・今まで悩んでいたのが馬鹿馬鹿しいな・・・もう良い。こうなりゃ腹を決めた。祖先が死徒だろうが関係無い。相手がお師匠様の友だろうと迷わない。戦うだけだ。お師匠様の頼みに報いる為にも俺は戦おう・・・アルクェイド達と共に・・・何よりも・・・お前に背中を預けて」

「ああ、頼りにしているぜ。相棒」

「頼りにしろ盟友」

打算も何も無い澄んだ笑い声が響く。

「全く今ほどお前の存在をありがたく思えた時はないな」

「気にすんな。俺も同意見だから」

再度澄んだ笑いが響いた。

こうして、七夜志貴は全てを吹っ切って『六王権』との戦いに身を投じる決意を固めた。

だが、衛宮邸に帰ると

『し〜〜〜〜〜き〜〜〜〜〜』

『し〜〜〜〜〜き〜〜〜ちゃ〜〜〜〜ん〜〜〜』

「にいさ〜〜〜〜〜ん〜〜〜〜」

『し〜〜〜〜〜ろ〜〜〜〜う〜〜〜〜〜〜』

「せ〜〜〜ん〜〜〜ぱ〜〜〜い〜〜〜」

二人の有様を見た怒れる乙女達によって先ずは地獄の謝肉祭に突き落とされたのだったが・・・

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